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ミーハーに生きてる。アイドルとミュージカルが好き

60年前も今も想いは言葉にしなきゃ伝わらない -ミュージカル「キャメロット」

ジャニーズWEST(現WEST.)の桐山照史くんがミュージカルに出るというので日生劇場に行ってきたよー。

 

先に言っておくと、わたしはミュージカルは好きだけど、古典モノもアーサー王伝説もあまり好きじゃない。事前にマロリーの原作を読み直し、曲をいくつか予習していったものの、理解できるのかびびり散らかしてた、のですが案外楽しめました。2回観たよ。ごりごりネタバレしまーす。

【メモ: 関連作品】
  ①1480  本   マロリー「アーサー王の死」
  ②1958  本   ホワイト「永遠の王」 ←①ベースのオリジナル
  ③1960  舞台  キャメロット ←②の舞台版
  ④1967  映画  キャメロット ←③の映像化
  ⑤2023  舞台  キャメロット ←③を改変したオリジナル
  →今回観たのは③の輸入版。①と③の曲を予習済み

 

 

全体的に思いきった脚本でおもしろい

わたしのアーサー王伝説に対する苦手意識は、①ランスロットとグィネヴィアへの感情移入のしにくさ、②誰も救われない終わり方、だったんだけど、どちらも解消された脚本だったのが、とにかく満足度高かった!

特に①は、原作だと全くわからんグィネヴィア→ランスロットへの想いが、ストーリーを通じて丁寧に描かれていてとても良かった。なんかグィネヴィアって、凛としていて賢くて気高いTHE高嶺の花というイメージだったけど、舞台だと、男たちよわたしを取り合って♡っていう夢女子(死語?)みたいな描き方なんだよね。1幕冒頭からグィネヴィアのイメージをひっくり返されて、これは思いきってるな!?と仰天したけど、賢くて夢見がちだからこそ、刺激に飢えていて。そんなところにあんなおもしろ生物代表のランスロットが来たら、それはまあ確かに惹かれるかも、と納得できて意外と良かったです。

一方でランスロット→グィネヴィアは完全に一目惚れ。原作だとグィネヴィアを意識するきっかけのエピソードとか、他の女に誘われてもなびかない話とか、夜な夜な密会しに行こうとする描写とかが出てきて、こいつ人妻に骨の髄まで惚れてんなとわかるけど、そういうエピソードは全部省いて、はじめまして→決闘→告白!の流れでびっくり。告白してからはラブソング歌ったりするけど、告白前は役者の演技で想いを魅せる脚本になっていて、こちらもかなり思いきっていておもしろかった。ただ、だからこそ、はじめましての一目惚れのシーンをもう少し劇的な演出にしてもよかった気がしないでもない。

②についても、全部を嚙み砕けている訳ではないけど、未来につながる前向きな終わり方になっていた、と思う。観劇後、鬱々とした気持ちにならず、個人的にはとても嬉しかった。でも本当に予習しておいてよかった。ペンドラゴン、エクスカリバー、バン王...。ぽんぽんワードが出ては消えていくので、いちいち引っかかってたら置いてかれてたと思う。やっぱり学校でアーサー王を読むような欧米人が作った舞台を、手ぶらで観に行くのはキケン...。

 

60年前の作品を今やる意味って

平和、愛、赦しとかいろんなテーマを内包している作品なんだろうけど、わたしが強く感じたのは想いを言葉で伝える大切さみたいなこと。

優柔不断なアーサーと、自信家なランスロット。2人の対比は随所に出てくるけど、グィネヴィアの心の移ろいに気づいたアーサーがマーリンの言葉を回顧して、女の気が変わっても 変わらず愛を注ぐんだ 動じなければOK!って気持ちを押し殺す。一方ランスロットは気持ちを抑えられなくなって、グィネヴィアにドストレートに告白!これが決闘を挟んだ前後に展開していて、すごくうまい対比だとおもった。

アーサーってグィネヴィアのことを心から愛しているのに、なぜかそれを本人に言わないよね…。1幕ラストで2人のことを愛しているのに罰せねば…って1人で悶々と悩んでるけど、いやなぜそれを嫁に言わない!? そりゃどんどん揺らぐよ!グィネヴィアは戦争の火種になりたーい!って歌うような、まっすぐな愛を渇望してる子じゃん!あんたが一番よくわかってるでしょうがーー!と説教したくなった、けど、観ているうちに、60年前も今も人間って全然変わらないのだなーと妙に切なくなってしまった。アーサーがちゃんと想いを伝えて対話すれば、こんなに悲劇的な展開にはならなかったかもしれない。だけど人間って勝手に信じ込んだり、失うことを恐れたりして、言葉にするのを躊躇う生き物だよね…。アーサーが初めて「愛しい人」と素直な想いを伝えるのが、最後にグィネヴィアにさよならを言うタイミングだったのが、なんとも皮肉で物悲しかった。対話で物事を解決できるのが人間の特権なのに、それができない愚かさ。いつの時代も一緒なんだなとしみじみしてしまった。気持ちは伝えなければ意味がないんだー。

 

日本版に感じた誠実さ

輸入モノに生じがちな日本語の違和感が少なくて、訳詞を確認したら高橋亜子さんだった。ランスロットのIf ever I would leave you、冒頭は 置いていけない、で始まるのに、最後は 離れられない になるの、超痺れた!桐山ランスロットの切なく甘い歌声も相まって、こみ上げるものがあったよ…。あといきなり全然関係ない話するけど、ミュージカル「アナスタシア」に狂った民としては、「王妃様…」で膝をつくランスロットを見て、「皇女様…」で膝をつくディミトリを思い出して一人で悶えました。

▼海宝先生 x 亜子さんの対談おもしろいよ

wod.wowow.co.jp

 

あとプログラムがすごく良かった!今年は5作品しか買ってないけど、中でもかなりお気に入り。

わたしは観劇後もモルドレッドの必要性がよくわからなくて、というのも、グィネヴィアの心がアーサーから離れる決定打として彼が登場するのかと思ってたら全くそんなことなくて(むしろそんなの王ならあるあるだから気にしてないわ!なグィネヴィアに笑った)、それだったらわざわざ新キャラを後半にぶちこまなくても、元々ついてる家臣から反逆者を出せばよいのでは?とか考えていた。のだけど、モルドレッドを通して描かれていたものについて解説で言及されていて、疑問が解消されたのがすごく気持ちよかった。アイドルが出る舞台のプログラムって写真集になってしまうものもあるけど、ちゃんと丁寧な作品解説を組み込んでくれるのは、親切である前に作品と観客に対してとても誠実だなと思う。とても嬉しい。大切にしよう。

ラストの子役=マロリーであることについてもしっかり言及があったのも良かったとおもう。あれはマロリーを知らなければ台詞からはわかりようがないのでは、と勝手に心配した部分だったので。

プログラムはそれ以外のビジュアルももちろん、キャストコメントと座談会も雰囲気の良さが伝わってきて本当に満足度高かった。この素晴らしいプログラムは劇場内でのみ販売。2000円、現金のみです(ここだけがクソ)。

 

「古典」は自分に都合よく使えば良い

良かったな~と思う部分も多かった一方で、全体的に漂う独特なのっぺり感やアナログでシンプルな演出に退屈さを感じる部分はあるし、ストーリーにもウーン?って首を捻る部分が普通にあった。

というか、そもそも物凄い密度で台詞が飛び交うので、いわゆるミュージカルとは違うものに感じた。かなり集中力が必要。シンプル疲れる。あとこれは客のマナーの問題だけど、幕が開いてからの途中入場は劇場側で規制してほしい。観るのに集中力が必要な舞台だからこそ萎えてしまった。

音楽的にも単調でそれでいて1曲が長いので、絶対に寝不足で行ってはいけない。曲自体はとても素敵だし、生オケの醍醐味も十分感じられるけど、どうにも単調で…。それに歌える役者がこれだけ揃っててソロナンバーばかりなのも寂しい。

なんだかんだでストーリー的にも、国の統治も、グィネヴィアとの恋愛も、どちらも中途半端で終わるからどうしても物足りなさが残る。うまく収まる話というよりは、風呂敷広げたままふわっと別のところに帰結していくので消化不良な感じ。

とまあ拭いきれないモヤモヤもあったけど、こういうのは全部「古典」だからしょうがない!60年前なんてわたしこの世にいねーし、考えても理解できないものは、まあそういうもんなんだろう!って割り切って、美味しいところだけ美味しくいただくのが一番良いんだなと突然気づいた。古典ミュージカルだぞ~って全面に出されてびびってたけど、なんかそうやってこっちが免罪符に使っちゃえばいいじゃんって思えたのは、古典アレルギーを克服できた気がして結構収穫だった。

そういえば生オケ良かったです。オケピを使わないと聞いていたので楽しみにしていたら、これまたかなり思い切った配置でびっくりした。ラストシーンのオケが妙に印象的でなんだろうと考えていたら、譜面台を照らすライトが戦火に見えるねと友人が言っていて、それだ!!!となった。そんな演出方法があるなんて衝撃だったよ。

 

キャスト良かったよ

歌えるメインキャストが揃っていて超、超、満足度高かった!だからこそ、デュエットがもっともっと見たかった。それに今井さんの歌唱がないのは、さすがに… さすがに… 輸入モノだから仕方がないとは言え、さすがに、言葉が無い…。

 

坂本アーサー

物凄い台詞量だった。台詞量に加えて、ヤングアーサーから成熟したアーサーまで、見事に演じ分けていらして圧巻でした。特にヤングアーサーのみずみずしさ!「こわい」「ごめんなさい」の言い方…!!50代で10代に見える演技。相変わらず美しく癖の無い歌声なんだけど、唯月グィネヴィアとのデュエットになるとよく声が伸びていて、すごく気持ちよかった!グィネヴィアへの想いみたいなのも感じられて素敵でした。それなのに言葉で愛を伝えないアーサーにはぐぬぬ…だけど。

優柔不断で人間臭いアーサー像、わたしのイメージをひっくり返してきたし正直好みではないけど、新解釈として受け入れられたのは坂本くんの演技の賜物だったなと思う。でもとにかく好みじゃないので、他の役でまた観たい。

ずっとアーサーとしてそこにいるのに、カテコでハケる前にふわふわと手を振ってるのを見ると、あ 坂本くんだ… と思わせられておもしろかった。なんというかそこの差が一番強烈な人で、アーサーがあまりに自然だからこその強烈さだったんだと思う。力いっぱい拍手を送り続ける客席の温かさもまた素敵でした。

 

桐山ランスロット

バリトンボイスのランスロットを、高音を得意とする桐山くんがどう料理するのか心底楽しみにしていたのですが、もうめちゃくちゃ最高だったよ~~!低音という新たな武器を手に入れててびっくり。1音目で目ガン開きになった。目をつぶって聞いていたら、桐山くんだと判別できなかったとおもう。初めての体験だった。低音もただ低いだけではなくて、甘さや切なさといった湿度のある歌声で、If ever I would leave youは最高に良かったです。最後の「離れられない 決して」はグィネヴィアを想う温もりと甘さ、それでも拭い去れずほのかに残る逡巡の香らせ方が絶妙で、思わずぐっときてしまった。めちゃくちゃ良かったなあ~~。直後にモルドレッドが登場してひっかきまわすのだけど、全然内容が入ってこなくて焦った。ぐぬぬ古典… もっと余韻をくれ!

どこまで狙ってやってるのかわからないけど、自信家のわりに少し早口が気になった箇所があったのと、もう少し感情表現をわかりやすくしても良い気はした。...と初見のときは思ったのだけど、2週間後に観に行ったらまったく気にならなくなっていて流石でした。演技がモノを言う難しい役を説得力を持って演じていて、カテコで胸が熱くなってしまったよ。

歌声だけじゃなくビジュアルも舞台映えしていてびっくり。上背もあるけど厚みもあるから甲冑が違和感ないし、お顔も小さすぎず表情がわかりやすくて存在感があって。マントを身体の一部のように扱う所作も見事でした。本当に舞台向きの人だ。今まで全然ミュージカルに出ていないなんて国家損失すぎる。ご本人の志向が舞台にあるのなら、外部の作品をどんどん受けてほしい。個人的にはいつかレミゼのジャベールが観たいよー!

▼カメレオンの高音パートを表情豊かに歌う桐山くん好きすぎる

www.youtube.com

 

唯月グィネヴィア

夢女子(※個人の見解です)を見事に演じていて本当にキュートだった!王妃の衣装、リボンがついて華やかでキュートレベル高すぎてびっくりしたけど、完璧に着こなしていらしたし、握りこぶししかないお顔から放たれるソプラノボイスはまっすぐ芯があって、グィネヴィアにぴったりハマってました。アーサーとの絆、ランスロットへの抑えきれない想い… どちらも丁寧に演じていたので、新解釈のグィネヴィアをスッと受け入れられた。

アーサーとのデュエットでは、坂本くんも唯月さんも加減なく歌っているのが伝わってきて最高!だった!本当に気持ちが良い!!Camelotでは若々しく弾む軽やかさ、What do the simple folk do?はシリアスな展開の中で、ハイちょっと休憩!みたいに差し込まれる曲だけど、それにふさわしい愉快さと、それでも隠せぬ物悲しさの漂わせ方が印象的でした。相性の良いデュエットって本当に素敵。いつまでも聞いていたかったよ。

 

入野モルドレッド

ずっと生き生きしてた!滑舌はもちろん良いのだけど、とにかく声質が良い。パーン!と弾ける感じがあって、それが下劣なキャラクターにバチバチにハマってた。モルドレッドのナンバーって歌いづらそうだけど、そんなの微塵も感じさせず、なんかずっとたのしそうで本当に良い!1幕が特にゆったりとした展開ではあるから、モルドレッドが生き生きとひっかきまわしてくれる2幕はスピード感もあって雰囲気が全然違ったな。だからこそもっと出番が欲しかった…。2幕からしか出てこないし、いつの間にか退場しているしね…。

あと入野さんは黒のネイルをされていたけど、親指と薬指だけ塗ってないのは、ハンドサインを意図してるんだろうか?どこかで答え合わせができたら嬉しいな。

 

 

というわけで乱雑感想でした。また書き足すかも。

桐山くんが出ていなかったら観なかった分野の作品なので、食わず嫌いを克服させてくれる推したちには、いつも与えてもらうばかりで感謝しかない。わたしも想いを言葉にできる人でありたいなとおもって、仮死状態だったブログを整理して、ファーストエントリにしたためました。

 

東京公演完走おめでとうございました!次は大阪ですね。誰一人欠けることなく、最後まで走り切れますように。

松竹座で11/20(土)までだよー

www.shochiku.co.jp